2011年2月22日火曜日

【プロが教える職場の法令順守】(06) 偽名でホテルにチェックイン……文書偽造罪

人目を避けてホテルに泊まりたい。こういうこと、誰でもあるでしょう。もちろん、ひとりで人生を真剣に考えたいという真面目な人もいるでしょうし、不倫にふけりたいという、ちょっとふらちな人もいるでしょう。しかし、偽名でホテルに宿泊すると、犯罪になるケースがあります。

チェックインの際、宿泊申込書に偽名を書くことは、文書偽造罪です。文書の作成名義人を偽って領収書や請求書、契約書など「権利義務もしくは事実証明に関する文書」、つまり「法律上重要な文書」を作ると成立する罪です。宿泊申込書は、客とホテルとの間で締結される宿泊契約の申込書に当たります。つまり、「権利義務に関する文書」といえます。ですから、別人が宿泊していると思い込ませるために別人の氏名を書けば、私文書偽造罪です。実在する人物の氏名ではなく、架空の人物の氏名でも同じです。

会社の経費で接待したのに、飲食店から領収書をもらい損なった場合も気をつけてください。「実際に店にカネを払ったのは間違いない」と、飲食店名義の領収書を作って精算してしまう。サラリーマンはやりがちですが、犯罪です。多くの人が誤解していますが、文書の作成名義人、つまり「誰がこの文書を作ったのか」を偽ることが、「文書を偽造する」ということ。それを偽らなければ、たとえその文書の内容が虚偽であっても、文書の偽造とはなりません。法律は、文書の内容の真実性よりも、作成名義の真実性を重視しているからです。

ただし、公務員が作る文書は別。虚偽の文書を作成すると、文書偽造罪とは別の罪、つまり「虚偽(公)文書作成罪」が成立します。公務員の作る文書については、その内容の真実性についても、刑罰で保護しようとしているのです。 (小林総合法律事務所代表=小林英明)


~日刊ゲンダイ 2011年2月19日付掲載~