2011年3月12日土曜日

【プロが教える職場の法令順守】(09) どこまでがインサイダー取引か?

「聞いちゃったかといえば、聞いちゃったんですよね」。このセリフ、覚えている方もいるでしょう。発言者は村上世彰氏。ニッポン放送株の売買がインサイダー取引に当たるとして、証券取引法違反の罪に問われ、06年に記者会見したときのセリフです。

超低金利の現在、株式投資は大きなリターンが期待できる資産運用法のひとつ。株式売買をしているサラリーマンも少なくありません。儲けるには、他人より早く正確な情報を入手することが必要ですが、公表前の会社の重要情報、つまり「インサイダー情報」を知り、それに基づいて株取引をすると犯罪なのは、誰でも知っているはず。ところが、「どこまでがインサイダー取引を満たす要件か」は、意外に知られていません。

インサイダー取引は、「その会社の役職者、取引先、または契約締結している者」と、「その者から一時的に情報を入手した者」のみが、処罰の対象とされています。ですから、一時的に情報を入手した者からさらに情報を得た人は「二次的情報取得者」とされ、処罰されません。

例えば、営業に行った得意先で、「今後は増配する予定」と聞いた人がその会社の株を買うと、犯罪です。得意先での雑談など、正式な場ではなく、小耳にはさんだ会社の重要情報で株を買っても、犯罪となることがあります。ところが、その者からさらに同じ情報を聞いた人が、それを基に株を売買しても、犯罪にはなりません。株で儲け続ける人の中には、こういう人もいるのです。

ただし、二次的情報取得者のように見えても、一時的情報取得者と同じ会社に所属する場合は、一時的情報取得者とされるケースもあります。生半可な知識で、このような情報を基に取引をするのは無謀ですし、ヤケドのもと。やめた方が賢明でしょう。 (小林総合法律事務所代表=小林英明)


~日刊ゲンダイ 2011年3月12日付掲載~