2011年3月26日土曜日

【プロが教える職場の法令順守】(11) 「法に反しなければ大丈夫」の落とし穴

法令に書かれていることは、「やってはいけないこと」です。そのせいか、「法令に違反することさえしなければ大丈夫」と考えがちです。たしかに、法令に違反しなければ、罰を科せられたり、損害賠償の責任は負いませんが、注意しなければいけない点があります。「法令の解釈はひと通りではない」です。

「行列のできる法律相談所」というテレビ番組では、4人の弁護士が1つの問題についてそれぞれ意見しますが、一致する例はほとんどありません。どんな行為がどんな法令に違反するかの解釈は、人によって異なるからです。つまり、自分では法令に違反していないと判断しても、他人の解釈では法令違反だと判断されることはよくあります。

解釈が分かれた場合、統一的な解釈をする権限は裁判所にあります。法令違反だと裁判所が判断して初めて、責任を負うのが正しいのです。ところが、日本ではそうはなっていません。裁判での有罪確定前でも、警察の捜査で容疑者となった者は罪を犯したと決めつけられがちです。

06年の「ライブドア事件」を思い出してください。当時社長だった堀江貴文氏には、実はまだ最高裁判所の判決が示されていません。しかし、ライブドアや同氏の自宅に家宅捜索が入った時点で世間から指弾を受け、それに伴う社会的、経済的制裁を受けました。権力機関から法令違反の疑いを持たれた段階で、事実上の制裁を受けてしまった典型例です。

私たちは、「法令に違反することをやってはいけない」だけでは足らず、「法令違反ではないかという疑いを権力機関から向けられるような行為」すら、やってはいけないことになります。 (小林総合法律事務所代表=小林英明)


~日刊ゲンダイ 2011年3月26日付掲載~