2011年8月11日木曜日

【日本サッカーを世界のものさしで測る】(03) プレーに先入観を持たれ、それが自分を縛ってしまう

広山望がアメリカ行きを考えたのは、昨年11月のことだった。所属していたJ2草津から「契約延長を行わない」と通告されたからである。10年シーズン、背番号10の広山は38試合中29試合に出場していた。「試合に多く出ているとか、出ていないとか、契約とは関係ないんじゃないですか? チームとして何らかの刺激を与えるために、こうした通告はあるかもしれないという予感はありました」。広山はこう冷静に振り返るが、実に厳しい現実である。この時、彼は33歳になっていた。明らかに年齢によって断行された“リストラ”だった。

選手の節制、栄養学の進化、フィジカルトレーニングの効率化などにより、世界的に選手寿命は伸びている。日本代表監督だったジーコは、マスコミに対して「30歳以上の選手を安易にベテランと呼ばないでくれ」と頼んだことがあった。にもかかわらず、日本では選手を年齢で区切ることが少なくない。

08年シーズン末、東京Vが2度目のJ2降格の憂き目にあい、チーム予算を減らすために自動的に「高額年俸」と「30歳以上」の選手と契約しなかったことがあった。選手の価値を測るにはピッチ内外で多くの変数が存在する。経験や頭脳で加齢によって衰える瞬発力は、それなりに補うことができる。クラブの経営側が、選手の価値を目利きすることができないから、手軽に年齢で区切ろうとするのだ。

草津を離れることになった広山は、知人を介してアメリカのサッカー関係者に自分のプレーを集めたDVDを渡してもらった。その中で練習参加に招待されたのが、独立リーグ(USL)のリッチモンド・キッカーズだった。アメリカでの3日間の練習参加の後、1人だけ幹部に呼ばれて契約したいと言われた。「Jリーグで何年もやっていると、自分のプレーイメージに先入観を持たれてしまう。また、そのイメージを耳にすることで自分自身が縛られてしまうこともある。それに対して、アメリカ人に思ってもいなかったプレーを褒められると、選手として生き返ったような感覚がしましたね」

日本には、有望な若手選手が多く生まれてきている。そんな若手が、経験値の高い選手と一緒にプレーすれば学ぶことはゴマンとある。日本のサッカー界は、広山に限った話ではなく、有為な人材を数多く無駄にしていると思う。 (取材・構成=ノンフィクションライター・田崎健太)


ひろやま・のぞみ 1977年5月6日、千葉県出身。習志野高-ジェフ千葉-セロ・ポルテーニョ(パラグアイ)-レシフェ(ブラジル)-ブラガ(ポルトガル)-モンペリエ(フランス)-東京V-C大阪-草津を経て、4月からは米国独立リーグ(USL)のリッチモンド・キッカーズ所属。日本代表2試合。ジェフ千葉入りと同時に現役で千葉大教育学部に入学して話題を集めた。身長175センチ、体重68キロ。


~日刊ゲンダイ 2011年7月8日付掲載~