2011年8月11日木曜日

【日本サッカーを世界のものさしで測る】(04) アメリカ独立リーグは選手が大人だ

6月のキリンカップに来日したペルー代表のことを某テレビ局は「格下」と表現していた。コパ・アメリカ(南米選手権)が好例だ。開催国アルゼンチンがボリビアに続いてコロンビアと引き分け、ブラジルは初戦でベネズエラとドローに終わった。南米には楽に勝てる国なんてない。一部のサッカー中継のアナウンサーや解説者は聞くに堪えないし、日本のスポーツメディアの常識と世界の常識は、いまだに大きくズレている。

ペルー同様、日本で軽んじられている国のひとつにアメリカがある。アメリカは、野球やアメフトなど4大メジャースポーツのイメージが強いが、近年、サッカーも飛躍的に力をつけてきている。W杯には6大会連続で出場し、02年はベスト8に、10年にはベスト16に入っている。

アメリカには元イングランド代表MFベッカムや、元フランス代表FWアンリがプレーしているMLS(メジャーリーグサッカー)というプロリーグがある。広山望がプレーするリッチモンド・キッカーズは、下部組織に相当するUSL(独立リーグ)に所属している。MLSとUSLの交流は盛んで選手の移籍も多い。先日、リッチモンドはUSオープンカップでMLSのコロンバス・クルーに勝利した。そのレベルは決して低くない。

「(リッチモンドの)チーム戦術を比べたら、J1のクラブには劣ると思います。ただ、個人のフィジカル、個人技は非常に高いし、伸びしろもすごくあると思います」。リッチモンドにはブラジル人やドイツ人、あとウガンダやシエラレオネなどアフリカ諸国の代表級選手も所属している。彼らはアメリカの大学を経由してチームに加わっている。これはUSLの特徴である。

「他国リーグと比べると選手が人間としてしっかりしているし、何よりも大人という感じが一番しますね。(年俸が高くないので)サッカーだけやっていればいい――というわけにはいかないことも関係しているかも知れませんが。あくまでメーンはサッカーですが、USLには、社会といろいろなつながりを持っている選手が多いですね」。Jリーグの高卒選手はプロ入り後、数年で解雇される例が多い。かねて社会経験のない元Jリーガーのセカンドキャリアが問題になっているが、アメリカでは「大学を経由する」ことで解決しようとしている。

日本サッカーが、急速に力をつけたことは事実である。しかし、J2は経営が揺れているクラブもあるし、選手は低年俸に喘いでいる。選手の社会教育も十分とはいえない。“格下”アメリカから学ぶべき点はある。 (取材・構成=ノンフィクションライター・田崎健太)


ひろやま・のぞみ 1977年5月6日、千葉県出身。習志野高-ジェフ千葉-セロ・ポルテーニョ(パラグアイ)-レシフェ(ブラジル)-ブラガ(ポルトガル)-モンペリエ(フランス)-東京V-C大阪-草津を経て、4月からは米国独立リーグ(USL)のリッチモンド・キッカーズ所属。日本代表2試合。ジェフ千葉入りと同時に現役で千葉大教育学部に入学して話題を集めた。身長175センチ、体重68キロ。


~日刊ゲンダイ 2011年7月9日付掲載~