2011年8月11日木曜日

【日本サッカーを世界のものさしで測る】(05) アメリカでサッカーの常識を覆された

広山望の所属するUSL(ユナイテッドサッカーリーグ=独立リーグ)には、他国にはない試合運営方法がある。「試合中に5人の選手が交代可能」「時に2日連続の試合を行う」「シーズンは半年」――。こうしたリーグ方式に最初、広山も戸惑った。「先発と合わせて最大16人の選手を使えるのでどんどん人が代わる。こんなに交代してもいいのかな、なんて思っていると最後に代わった選手が得点を入れて試合を決めたりする。面白いですよ」。選手交代枠5人は、連戦を乗り切るための方策である。

移動にも工夫を凝らす。ワシントンの南150キロにあるリッチモンドからフロリダまで移動する場合、選手は専用バスに乗って十数時間かけて移動する。そのバスにはベッドがあり、ぐっすり眠ることができる「バスは、大げさにいうとホテルみたいに大きいんです。前の方ではサッカーの試合映像が流れているし、移動中に選手同士のコミュニケーションもとれる。確かにバスで移動すれば経費も削減できるし、快適なので選手も肉体的、精神的にも楽になる。ボクは15年ぐらいプロでやってきていますが、アメリカは、いい意味で常識を覆してくれる。こういう経験が今のボクには必要だったのかな、と思ってます」

USLでは、下部組織の育成に力を入れているのも特徴だ。「アカデミー」と呼ばれる16歳以下と18歳以下のチームは全国リーグに参戦中だ。他にも4歳以下のチームから子どものレベルに合わせて多くのチームが組織されている。広山たちプロの契約選手は、こうした育成組織で指導を任されることもある。他クラブと比べ、リッチモンドには女子選手の数が多い。休日のピッチにはスポンサー企業のテントが立ち、親子連れも集まってくる。スクールや下部組織を含めたサッカーが《産業》としてアメリカに根付きつつあるのだ。

その一方で日本はといえば――。Jリーグが発足してもうすぐ20年になる。ドイツのスポーツクラブを参考に組織をつくり、どんどんチームを増やしていった。プロリーグを定着させた功績については評価できるが、クラブ増でレベルダウンを招き、選手は安い給料にあえいでいる。日本経済の地盤沈下とともにスポンサー企業は減り、子どもたちはサッカーに対して夢を抱けなくなっている。日本サッカーは、既成概念を捨てて新たな発想に取り組む時期にきている。そのヒントは、サッカー先進国・欧州のモデルケースにとらわれることなく、柔軟な発想でリーグを運営するアメリカにもある気がするのだ。 (取材・構成=ノンフィクションライター・田崎健太) =おわり


ひろやま・のぞみ 1977年5月6日、千葉県出身。習志野高-ジェフ千葉-セロ・ポルテーニョ(パラグアイ)-レシフェ(ブラジル)-ブラガ(ポルトガル)-モンペリエ(フランス)-東京V-C大阪-草津を経て、4月からは米国独立リーグ(USL)のリッチモンド・キッカーズ所属。日本代表2試合。ジェフ千葉入りと同時に現役で千葉大教育学部に入学して話題を集めた。身長175センチ、体重68キロ。


~日刊ゲンダイ 2011年7月11日付掲載~