2011年4月11日月曜日

【特別インタビュー】日本サッカー協会は東電に130億円の借りがある ジャーナリスト・刈部謙一

東京電力福島第1原発から約20キロ、同第2原発から約10キロにJヴィレッジ(福島県楢葉町・広野町)がある。広野火力発電所に隣接する町有地に東電が約130億円で建設。97年に完成した。94年8月27日付の読売新聞は「東電は第1原発の原発増設計画を発表。見返りの地域振興策として提案されたサッカーのナショナルトレーニングセンター(NTC)は、電力丸抱えの新地域振興策として注目を集めそう」と書いた。東電=福島原発とJヴィレッジとの緊密な関係性を考えると日本サッカー協会(JFA)は、何らかのアクションを起こすべきではないのか? 16年前に週刊誌上でリポート「サッカーW杯誘致と原発の談合構造」を発表したジャーナリストの刈部謙一氏に聞いた。

●「原発は安全なんです」と協会幹部
――そもそも日本サッカー協会は、Jヴィレッジに「どんな役回り」を期待していたのですか?
「計画が発表された95年当時は2002年W杯誘致を巡り、韓国と激しい戦いを繰り広げていました。サッカー協会は招致レースにひとつでも有利な材料が欲しかった。しかし、お金がない。そこで東電の構想に乗った。サッカー人気、W杯人気が原発建設の見返りに利用されたのです」
――W杯招致委員会の担当者だった小倉JFA専務理事(現JFA会長)からも、興味深いコメントを引き出しています。
「95年2月に香港で行われたダイナスティ杯を取材し、現地で小倉会長から『NTCは地域振興のため。我々としてやりたいし、やらなければならないもの。アジア初のNTCだし、(W杯招致活動の)目玉にもなります』と聞いた。そういえば『原発は安全なんですよ』と明快に応えていたのが印象的でしたね」
――東電と国が推進してきた原発の安全神話は完全に崩壊し、日本国民の不安は募るばかりです。
「2日に菅総理がJヴィレッジを視察。自衛隊員らを激励しました。そのJヴィレッジは、一週刊誌によると東電が管理して不評ですから、JFAがもっと積極的に関与すべきです。東電から提供された施設をJFAは、ずっと甘受してきた当事者でもあるのですから」

●1997年、福島第1原発の見返りにNTC建設の談合構造
――16年前に週刊誌上でサッカーと原発について踏み込んだ特集記事を掲載したのは、どういう思いからだったのですか。
「はたして原発は本当に安全なのか? 簡単に東電の言うことに乗っかっていいのか? そう問題提起をしたかった。当時のJFA事務局長を取材すると『原発を絡めるとややこしくなると思っていましたけど、東電からは原発の建設とは関係なくやりますと聞いています。とにかくNTC建設は、ひたすら我々の悲願なんです』と話していました。しかし、選手は困惑していました。加藤強化委員長(当時)は『見返りなら考え直す必要があるでしょう』、柱谷代表主将(当時)は『こうした施設(NTC)は税金で造って欲しい。こんな形(東電全額負担)とは思わなかった。一企業や一自治体だけで運営は難しいと思う。だからこそ国にやって欲しい』とJヴィレッジの東電丸抱えに否定的でした」
――これからJFAは何をすべきでしょうか。
「自分のWEBマガジンにも書きましたが、JFAは、いわば東電に130億円の借りがある。ならば責任を持ってその金を集め、復興のための費用とする。たとえば130億円プロジェクトと名付け、チャリティーマッチを積極的に推し進めているJクラブとも連携を取りながら、サッカー界全体の取り組みとしていくべきだと思います。あと、もうひとつ」
――何でしょうか。
「12月に日本でクラブW杯が予定されますが、絶対に開催すべきです。すでに世界各国による『日本脱出勧告』がなされており、これが“日本は危険”という風評被害を増長させている。大会を開催すれば、世界中から多数のプレスが殺到し、彼らの報道を通して“日本は安全な国”を世界に証明できます。正確な情報発信も重要です。たとえば全国各地のスタジアムの放射能データを定期的に発表してもいいでしょう。早く関係組織を立ち上げ、出場するクラブに安心材料を積極的に提供していくべきです」

かるべ・けんいち 1949年12月27日、東京都生まれ。法政大除籍。編集プロダクション「K&K事務所」主宰。WEBサイト「Football Weekly」(http://footballweekly.jp/)発行人。
参考:【発行人から】福島原発に対する日本サッカー界の責務
http://news.livedoor.com/article/detail/5433664/


~日刊ゲンダイ 2011年4月11日付掲載~