2011年4月11日月曜日

【プロが教える職場の法令順守】(12) 「やってはいけない」と「何もしない」の違い

「やってはいけない」と言うと、「じゃあ、何もしなければいいのだ」と誤解を招くことがあるようです。しかし、従業員として「しなければならないことをしない」のは、従業員にとって「やってはいけないこと」なのです。

「しなければならない義務」がある人がそれをしないと、刑事責任を含め、さまざまな責任を負わされます。例えば、食品や家庭用品の製造販売、ホテル・旅館などのサービス行、建物管理業などは、他人の身体、生命に危険をもたらす恐れのある業務です。これらの仕事に従事している人が、自分が何もしないことによって、死傷者が出る可能性があるのに、それを予見しなかったり(予見義務違反)、予見はしたが、そのようなことにはならないだろうなどと、安易に考えて何もしなかった(結果回避義務違反)。その結果、人を死亡させたりケガを負わせてしまうと、業務上過失致死傷罪として、5年以下の懲役もしくは禁錮。または50万円以下の罰金に処せられます。

サラリーマンにも、地位やポストに応じていろいろな義務があります。それらの義務を誠実にこなすことが、従業員の義務です。たとえ前記の刑事責任を負わない場合でも、なすべきことをしないと懲戒処分を受けたり、それによって生じた会社の損害を賠償する義務という民事責任を負います。

そうならないためには、どうするか? 例えば、製品の製造販売過程において、漠然とでも危険を感じたらただちに上司に報告、会社として調査をし、安全性を確認する。危険性を察知したら、直ちに製品を回収(リコール)したり、使用者に十分な警告を与える処置をするなどをやるべきです。 (小林総合法律事務所代表=小林英明) =おわり

~日刊ゲンダイ 2011年4月2日付掲載~