2011年4月18日月曜日

【底流を読む】東日本大震災 過度の自粛は自粛を

大震災に見舞われた11日午後4時すぎ、東京都千代田区の帝国ホテルで知人に会う予定があり、歩いて赴いた。地震発生後のロビーは人でごったがえしていた。その後JRが不通と決まり、そのまま同ホテルに「籠城」することになった。

宿泊客ではない。追い出されても文句は言えないが、ホテル側は親切だった。夜に入り、地下のレストラン街から2階宴会場の廊下まで、2000人に膨れあがった帰宅難民に対し、イスや毛布にカンパン、水を用意。要所に配置したテレビや館内放送で地震・交通情報を絶やさず、携帯電話の充電サービスまでする心配りに感謝の声が上がった。同様のサービスは他のホテルや百貨店でも聞かれた。今回の震災では被災者の整然とした行動が海外メディアからも評価されたが、同時にそれを支える流通業やサービス業の地道な活動も評価されよう。

被災地ではヨークベニマルなど、店内に残っていた食品や飲料水を周辺住民に無償提供するスーパーや食品店も目立った。灯油を無償提供するガソリンスタンドもあった。「ここが自分たちの生活基盤。地元客が困った時に支援するのは当たり前」と店主らは語る。日本の流通・サービス業の底力がここにある。人と人とのつながりを大切にする姿勢だ。日本の繁栄と安定を支えてきた最大の原動力は大中小の企業の真摯で地道な営みにあるという事実を、震災が浮き彫りにした形だ。

その視点から一つ提案したい。過度の自粛をやめるということだ。今「不要不急の消費」を控える動きが全国に広がっている。百貨店や居酒屋、都市ホテル、ゴルフ場、観光地では顧客が激減している。「被災地の人々の苦労を思うと消費を楽しむ気になれない」「不謹慎と言われかねない」というムードが背景だが、流通・サービス業側の自粛姿勢がこれに拍車をかけている。店頭の看板の照明を消したり広告宣伝を抑制したり。暗い街路は消費するのがいけないかのような雰囲気を醸し出している。

エアコンの温度を調節したり派手なネオンを抑えるなど一定の自粛は必要だろう。だが過ぎたるは及ばざるがごとし。計画停電も加わって世の中が暗いムードに沈めば、消費は大幅に冷え込んでしまう。それは経済復興を遅らし、被災地の再建にもマイナスだろう。人々が消費を楽しんでカネが回るから経済が動き、景気がよくなる。商いの基本は人とのつながりを大切にする地域貢献とともに、人々を明るくさせる工夫(マーケティング)にある。その底力を今こそ発揮してもらいたい。 (編集委員・井本省吾)


~日経流通新聞 2011年3月28日付掲載~